



皿倉山の中腹にあるその家は、車道から数百メートルもの狭い路地と階段を上ったところにある。゛ここはきつくて、いいとこで、不便なところ・・・゛
そこで暮らす老女・マリア (78) は無愛想で頑固者。
いつも憎まれ口をたたいて周囲を困らせているが、その言動にはどこか人間味がにじみでている。
ある日マリアは、遊びに来ていた孫のために買ったスイカを階段で落としてしまい、 咄嗟に階段を駆け降りるが、転倒してけがを負ってしまう。
彼女はこの長い坂を恨めしく、自分の衰えてく肉体の現実もあいまって、情けなくすすり泣く。
マリアは、この事故をきっかけに、息子の勧めに従って平坦な新興住宅地に引っ越して同居することを決意する。しかし、引越しを決意してから、マリアの目にはこの地域の何気ない風景がかえって新鮮に映り始める。
階段を駆け降りる子供たち。階段での井戸端会議。郵便配達の呼びかけ。近所の住人のさりげない思いやり。犬の声。風に揺れる秋桜・・・。引越しが近づくにつれて、マリアはこの地域で暮らしてきた意味をかみしめていく。
そしていよいよ引越しの朝、マリアはある決断をするのだった…。

入江杏子 中西和久 渡邊恵海 中村有志 他